目次
- はじめに
- サーベイの問題
- サーベイ・フィードバックとは
- 勘と経験に基づくマネジメントからの脱却
- 第1章 なぜサーベイ・フィードバックが必要なのか?
- マネージャーを素手で戦わせるな!
- 現場のマネージャーにしか、現場の変革はできない
- プロジェクトのコミュニケーションと成果の低下
はじめに
社員の働きがいが生産性に直結している!⇒エンゲージメント・サーベイを実施しよう!
サーベイの問題
- 「サーベイがどのようなもので、何をめざしているのか」について、担当者・管理者・経営者のあいだで共有理解がないこと
- サーベイが現場の改善に活かされるためには、「どのようなプロセスを現場に保証することが重要なのか」について、現場の理解が得られていないこと
サーベイそのもの、あるいはサーベイが現場改善に寄与するプロセスに対する無知・無理解が問題の根源
サーベイ・フィードバックとは
サーベイ(組織調査)で得られた「データ」を適切に現場に届け(フィードバックし)、現場の変化・職場の改善を導く技術のことです。
サーベイ・フィードバックは人材開発・組織開発の基礎技術 けれど、日本では長く人材開発・組織開発に関する高度なプロフェッショナル教育は行われていない現状
本書はサーベイの結果を活かしつつ現場の変化を導きたい人事部や経営企画部の方たちと現場のマネージャー・管理職の皆様のためのもの。
「勘と経験に基づくマネジメント」からの脱却
効果的にフィードバックされたサーベイやデータは「現場に対話」をもたらします。そして、対話は「明日」を作ります。
第1章 なぜサーベイ・フィードバックが必要なのか?
サーベイ・フィードバックとはいったい何なのか?
サーベイ・フィードバックとは組織で行われたサーベイ(組織調査)を通じて得られたデータを、現場メンバーに自分たちの姿を映し出す「鏡」のように返して(フィードバックして)、それによってチームでの対話を生み出し、自分たちのチームを決めてもらう技術です。
- サーベイ・フィードバックの歴史は、近年できたものではなく1950年代にはすでに存在していた手法。
主に組織開発(組織をいかにWorkさせ、成果をあげるかを論じる学問領域)や人材開発(個人の能力をいかに高めて、成果をあげるかを論じる学問領域)という実践領域のなかで用いられてきました。
サーベイ・フィードバックは次の3ステップ
[第1フェーズ]サーベイの実施
①「見える化」・・・サーベイを通して、普段は見つめていないチームや組織の課題を「可視化」する[第2フェーズ]フィードバック・ミーティングの開催
②「ガチ対話」・・・見える化組織的課題に、チーム・関係者全員で向き合い、その問題の解決・解消をめざして話し合う
③「未来づくり」・・・これから自分たちの組織・チームをどうしていくのかの「未来」を、当事者たちが「自分ごと」として決め、アクションプランをつくる
最近は第1フェーズの「見える化」ばかりにスポットが当てられる傾向があります。
見える化されたデータが、「現場」を変えるわけではありません。
「データ」に現場の人々が向き合い「対話」してこそ、現場が変わる
サーベイ・フィードバックが現代の組織に必要な「2つの理由」
- 多様化する職場メンバーをマネジメントしなければならないこと
- 慢性的な人手不足のなか、社員のエンゲージメントを高めて離職防止を図り、生産性を高めたい。
職場の多様化によって「チームがまとまらない」
- かつての職場は村のようなもので統一が取りやすかった ⇒ 戦後確立された日本企業独自の経営スタイル、雇用慣行である「日本型雇用=メンバーシップ型雇用」 日本型雇用はほころび始めている。
日本社会は、猛烈な「人で不足問題」を抱えている。 「日本人・正社員・男性」だけから優秀な労働力を安定的に確保は難しくなっている。そのため、働く女性、シニア、外国人を増やすなどして、職場の維持が必要
多様性は「遠心力」でもある!?
多様化した職場は、メンバーの価値観が一様でなくなり、まとまるのが難しい。価値観の異なるメンバーが向かう方向がそれぞれバラバラで、「遠心力」がかかってします。 そのような組織で、常に多様性に配慮し、組織のコンディションを把握し、適切にメンバーにかかわり、ケアをしていく必要がある。
エンゲージメントを高めて離職を防止し、生産性を高める
エンゲージメントとは、様々な定義、解釈があるが、一言で言えば「従業員がどの程度、仕事に熱心に関与しているか・取り組めているか」
2020年に経団連が調査した日本の企業の労務担当役員等を対象にした結果。回答企業の78.5%が従業員のエンゲージメントについて把握して、そのうちの54.2%は何らかの対応をしている。 対応策例としては、1番多いのが「職場のコミュニケーションの活性化・円滑化」次に、「経営理念や事業目的と社員の働く意義のマッチング」次に「社員一人ひとりが尊重される企業・職場風土の形成」
日本はエンゲージメントの数値が他国と比べて極端に低い。 米ギャラップ社の調査によると、「熱意にあふれる社員」の割合が米国32%に対して、日本は6%。調査した139カ国中132位と最下位クラス。
サーベイ・フィードバックがエンゲージメントを高める理由
離職防止で企業ができること、「入り口を増やすこと」「プロセスを効率化すること」「出口を減らすこと」
この中では 「出口を減らす」つまり今いる従業員になるべく長く働いてもらうことが大事。 このことを「リテンション・マネジメント」といい、有力な手段の一つがエンゲージメント・サーベイ エンゲージメントサーベイのスコアが高ければ、新入社員の定着率が高いこと、そして個人の生産性が高いこと。そして営業利益にも明確な差がある。
マネージャーを素手で戦わせるな!
現場のマネージャーにしか、現場の変革はできない
多様化した人々を前に組織をまとめつつ、そこで働くメンバーの働きがいを高めて、成果を出し続ける という難問中の難問にマネージャーが当たることになる。
マネージャーにはこの難問を解決するために「武器」が必要。
職場で働く人々の変化を拒絶する要因として2つ * 「職場の同調圧力」 * 「現状維持バイアス」
「職場の同調圧力」
同じ職場で長くつとめている人々は、心の底で働くことや人間関係に対して言いたいことをもっていても、「スピークアップ(言挙げ)」することは難しい。 職場には同調圧力が働いているため誰かがその緊張を破り、秩序を壊すことを、メンバー同士が監視している傾向がある。 マネジメントするためには、「声なき声」を可視化、表出していく必要があります。
「現状維持バイアス」
「何かを変化させることによって得られるメリット」よりも「現状維持することによりメリット」を高く見積もってしまう
プロジェクトのコミュニケーションと成果の低下
チームのパフォーマンス、組織内のコミュニケーション量はできて当初は上がるが、時間がたてばたつほど下がっていく。組織は「生き物」です。
組織は時折、「メンテナンス」や「ケア」を行う必要がある。
チームの生産性にロスが生まれることを「プロセスロス」。
チームの生産性に「プラスの効果」が生まれることを「プロセスゲイン」という。
つまり、定期的にケアしながら組織のコンディションを見える化する必要がある。
そのために、サーベイやデータといったツールで、客観的な基準によって「見える化」をする。
テクノロジー至上主義に陥り、「人」を軽視していないか?
人間は決して「データだけ」では動かない
という安易な思考法に課題がある。 HRテックのシステムからフィードバックされたデータは「人・組織・職場の変化」を導くリソースの一つでしかない。そのデータを「解釈」されて、変えていくことができる。
正しい組織の変わり方
新しいテクノロジーが(インプット:input)
現場の人々に解釈されて、意味づけられて(スループット)
ただちに、人・組織・職場を変える(アウトプット:output)
サーベイ・フィードバックとは
「サーベイでいかに見える化を行うか」だけでなく、サーベイが示す客観的事実に、いかに意味づけをして、現場に戻すかという視点を踏まえた手法。
『カモメになったペンギン』が我々に教えてくれること
組織の変確認は徹底した準備が欠かせない
変革のマネジメントの権威である、ハーバード大学ビジネススクール名誉教授のジョン・コッターも、「したたかに戦略的に組織を変えていく工夫をしないと、そう簡単に組織なんて変わらない。激しい抵抗にあう」と述べています。
中原 淳. 「データと対話」で職場を変える技術 サーベイ・フィードバック入門 これからの組織開発の教科書 (Japanese Edition) (p.68). Kindle 版.
寓話『カモメになったペンギン』
寓話から読みとけることは、「組織を変えるには危機感を醸成する」ことだけではなく、もっとも重要なことは今、起こっている出来事が、本当に危機であると皆に思わせるだけの力を持つ「データ」です。
データは必要だが、
その「意味づけ」こそが真の問題
米国経営学会の論文誌掲載「成功する組織変革に満たされる要因」のリスト
1.問題に関するデータ(事実)を集める
2.変化に対する組織の準備度合いやタイミングを見極める
3.科学的知見に基づいた変革のための介入
4.効果的な変革のリーダーシップを開発する
5.説得力のある変革のビジョンを開発し伝える
6.ソーシャルネットワークを用いて働きかけ、影響力を活用する
7.実施をサポートするために有効な実践を利用する
8.小さなプロセスと実験を促進する
9.ゆっくり時間をかけて変革の進捗と成果を評価する
10.変革が効果を持続的に発揮できるように制度化する
中原 淳. 「データと対話」で職場を変える技術 サーベイ・フィードバック入門 これからの組織開発の教科書 (Japanese Edition) (pp.73-74). Kindle 版.
このリストからも、1番目にデータがを集めることだとわかる。
Column1 データを使いこなす「前段階」でつまずいていませんか?
日本の人事の知られざる「データへの疎さ」
- 手法を導入前にすべきこと「データ管理の体制を整えること」 データ活用以前に、「そもそも」の問題・課題を抱えている。
- データを分析する目的が不明瞭
- データがどこにあるかわからない
- データって「何」?
- データがつながっていない
- データが分析できる人材がいない
- データをフィードバックしたことがない