第6章「機械」への同調
アンダースはアイヒマンによるユダヤ人虐殺への加担に大きな関心を寄せた。 アンダースは諸悪の根源をアイヒマンという人物の良心ではなく、嵌め込まれていたシステムのうちに見出す。 そしてそのシステムは政治的なものではなくテクノロジー的なものとして説明している。
ナチスの怪物性
- アンダースは常軌を逸した事態「怪物的」なものとしている
- ナチスの怪物性の特徴
- 制度化され工場化された人間の抹殺
- 抹殺の業務を指導した者とその手先
- 何百万人もの人たちが、なにひとつ知らない状態に置かれ、いつまでも置かれ続けたこと。
虐殺が「制度化され工場化され」ていることのうちに、その異常性を指摘している。
人間の無能力さ
- 怪物性は何によってもたらされていたのか
- 機械に対する「人間の無能力さ」
- 人間の想像力を無力化する機械が、それ自体として拡大し続けようとする傾向を持つこと
機械に対する「人間の無能力さ」
- 機械の定義 ⇒ 何らかの目的を達成するための機構一般を指している
- 例えば、「制度化され工場化され」たものすべて比喩的な意味で「機械」
「制度化され工場化され」た「生産過程」は「無数の個々の仕事」へと分業される
- 全体を知ろうと知るまいと部分の仕事は変わらない。
機械の原理
アンダースによれば、「機械の原理」とは「最大限の成果を達成すること」である。つまり機械は、特定の目的を達成するだけではなく、その目的を最大の効率によって達成することを、原理としている。
例えば、自動車は舗装されていない道よりも舗装された道を走ると性能を発揮できる。
機械が使う環境をも機械化し、その中で機械ではないものを抹消する。その中に人間もまた抹消されるリストに含まれる。
順応主義の脅威
アンダースは、機械の原理に人間が従属し、それに支配されてしまう事態を、より一般的に「順応主義社会」と呼ぶ。
順応主義社会を特徴づけているのは、人間があたかも自分から順応しているかのように見え、かつ、そうした順応が自然に引き起こされている
- こうした人間の支配を「同調」とアンダースは呼んでいる。
機械の原理とスマートさ
本書の「スマートな悪」
人間がテクノロジーのシステムに自ら最適化することで、システムの「歯車」となり、責任の主体としての能力を失い、無抵抗なままに暴力に加担してしまう悪のあり方である。
引き起こしているのは、「機械の原理」そして、それはつまり「スマート」であることを唯一の価値とする思想である。
第7章 満員電車の暴力性
身近な例として「満員電車」の問題を取り上げている。
ラッシュアワーのストレス
- 満員電車の異常性、「パーソナルスペース」の維持もできない状態。ストレス。
- 人々はこの満員電車に関して、都市生活を送るための「仕方のない」現象とみなされている。
満員電車の日本性
- 満員電車に乗っているときに暴力が発生している。互いに押し合い、つぶしあい、足を踏み合いながら、相手に対してむき出しの嫌悪感を示す。この状態が存在しているのにも関わらず、認識不可能になる。認識不可能である以上、それに加担することを免れることもできなくなる。
満員電車と社会のシステム
社会学者の磯村英一によれば、それは満員電車を不可欠とする都市のシステムである。磯村によれば、都市とは「できるだけ多数の人間が、同じ時間に、一定の場所に集まることによって、高度の集積の効果、都市エネルギーを生む」ものであり、満員電車はその副産物に他ならない。
- むしろ、都市のシステムによって要求されてる一つの機能が満員電車
- 満員電車に乗ること⇒ 人間を非人間的にする。
- 非人間的なことを受け入れられる人間こそが、社会適格者に認められる。
満員電車の乗客は、自分のためだけに満員電車に乗るのではない。そうではなく、その満員電車によって成り立っている社会のシステムのためにそうするのである。