第1章 認知のクセ 脳の「認知のクセ」が人の意思決定に影響する
認知のクセを生む「大元」は何か?
クイズ 野球のバットとボールが、合わせて1ドル10セントで売っています。
野球のバットはボールよりも1ドル高いです。
別々に買ったら、それぞれいくらでしょう?
「バット1ドル5セント、ボール5セント」です。
- 上記のような簡単な計算に、システム1を使って答え、計算を間違ってしまう。これが認知のクセによる非合理な意思決定。
脳は2つの思考モード「システム1 VS システム2」
- 人間の脳は、情報処理をする際に、2つの思考モードを使い分けている。
- それが「システム1 」と「 システム2」
- 「認知のクセ」を生む理論の基本
システム1
直感的で瞬間的な判断であることから「ファスト」
システム2
注意深く考えたり分析したりと時間をかける判断であることから「スロー」
人はいつ、システム1を使いがちか?
- 人の意思決定のデフォルトはシステム1
- しかし「システム1よりシステム2のほうが優れている」というわけでもない。
- 毎日の何気ない行動(朝食、ランニング、洋服など)をすべてシステム2で考えていたら、脳がパンクしてしまう。
- システム1は決して無用なものではない。
- ただし、システム1で瞬時に判断することで思い込みや偏見となって、間違った意思決定につながることはある。
- 以下6つのときにシステム1を使いがち
- 疲れているとき
- 情報量・選択肢が多いとき
- 時間がないとき
- モチベーションが低いとき
- 情報が簡単で見慣れすぎているとき
- 気力・意思の力(ウィルパワー)がないとき
システム1を排除する「非流暢性」
システム1を意識すること以外で排除する方法として、「非流暢性」つまり「ひっかかり」を作る方法がある。
あえて読みにくいフォントをやポイントを使う
ただ、いくら非流暢性を加えても前述の6点を考慮してなければかえって、悪影響になる場合もある
システム1が「さらなる認知のクセ」を生み出す
メンタル・アカウンティング
人間には「心の会計」があり、同じお金でもどのように取得し、どのように使うかによって、自分の中での価値が異なってくるという理論
「劇場の10ドル」という実験
劇場のチケットを購入するときに以下の状況だったら再度チケットを買うかどうかの実験
- A.購入時に10ドルのお札を落としたことに気づいたとき
- B.10ドルで前売り券を買って、前売り券を落としたことに気づいたとき
どちらも同じ10ドルの損失なのに、Aの場合は再度購入する人が88%。Bの場合は46%になる。
- この場合は、劇に使うお金は「10ドル」と無意識に仕分けされていて、劇に使うお金の10ドルとして前売り券は処理がされているため、購入しなくなった。
- 他にも「思いがけない収入」などによっても非合理な行動をとる。
自制バイアス
人間は自分が思うほど自制心は強くありません。なのに、「私は誘惑に負けない。衝動的な行動を抑えられる」と自分を過大評価する認知のクセを持っています。
- ダイエット中、ネットショッピングのときなど
埋没コスト
一度何か始めたら、たとえ成果が出ていなくても、そこに費やした時間・お金・労力を取り戻そうと継続してしまうという非合理なバイアス。
- ギャンブルや新規プロジェクトなど
機会コスト
- 埋没コストと合わせて覚えておくべき、機会コスト
上手くいかないプロジェクトを埋没コストでずるずると続けていたら、その時間で新しいプロジェクトを始めるチャンスと失ってしまいます。すでに上手くいっていないプロジェクトを継続するエネルギーや予算や人材を別のところに回したら、新たな機会が生まれるはずです。これが「機会コスト」です。
ホットハンド効果
ホットハンド効果とはある事象が連続して起こると、次も同じことが起こると思い込んでしまう認知のクセ。次も同じことが起きる根拠などないのに思い込んでしまうという意味
- バスケットボールでシュートが3回連続入ったら、次も入る
- 成果を上げうまくいっている人が次もできるに違いないと自分も周りも思ってしまう
マクドナルドのアンケート調査が大いなる失敗だったワケ
- マクドナルドがマーケティングリサーチを実施し、行ったアンケートで、「もっと健康的なメニューを増やしてほしい」という声がたくさん挙がった。
- マクドナルドは消費者の求めるものを提供するため、サイドメニューにサラダ、フルーツを加えた。しかし、実際消費者が求めたのは「こってりした揚げ物、ファストフード」だった。
人間理解には考察よりも観察せよ
消費者や従業員など対象となる人間を理解しようと思ったら「考察」には限界があります。それよりも「観察」をすることが大事です。
- マーケティングリサーチ手法として「エスノグラフィー」
確証バイアス
- 日々、多くの情報を受け取る私たちが非合理な処理をしている。
確証バイアスとは、何かを思い込んだら、それを証明するための根拠ばかりを集め始めてしまうバイアスです。
真理の錯誤効果
確証バイアスとは逆に、「絶対にこんなことはあり得ない」と思っているのに、繰り返し見たり聞いたりすると信じてしまう
「五感」も認知のクセになる
「身体的認知」
身体から入って脳に情報が伝達される際にも認知のクセが生まれる
- 面白くない場合でも笑っていると、笑っているから楽しいに「違いない」と錯覚し、楽しくなると結論づける
「時間」も認知のクセになる
「双曲割引モデル」
近い将来を考える際は、少しの時間の差も気になるが、遠い未来を考える際は、時間の差が気にならない。
よく知られている「お金の実験」
質問その1:「今日100ドルもらうのと、1ヶ月後に120ドル もらうのと、どちらがいいか」
ほとんどの人が「今日100ドルもらいたい」と答えます。これは現在志向バイアスの働き
質問その2:「1年後に100ドルもらうのと、1年1ヶ月後に120ドルもらうのと、どちらが良いか」
ほとんどの人は「1年1ヶ月後に120ドルをもらいたい」と答えると証明されており、1日後、3日後と時間をいろいろと変えて検証されていますが、やはり結果が同じでした。今日と1ヶ月後は大きな差、1年と1年1ヶ月後だと、1ヶ月はたいしたものではなくなってしまう。
ビジネスシーンの例
- 管理職が部下の査定の際に、最終評価をエクセルでまとめる作業を、手作業でやっていたのを、パイソンでプログラムで書いて自動化すればラクになるところをいざ査定の時期になると「プログラムを書くのは時間がかかるから、今回は今まで通りさっさと手作業でやってしまおう。」となる。
しかし、「今期は貴重な時間を割けないけど、来期は1週間かけてプログラムを書こう」と毎回話しに出てくる。
- 管理職が部下の査定の際に、最終評価をエクセルでまとめる作業を、手作業でやっていたのを、パイソンでプログラムで書いて自動化すればラクになるところをいざ査定の時期になると「プログラムを書くのは時間がかかるから、今回は今まで通りさっさと手作業でやってしまおう。」となる。
長期的には利益となる作業を延々と先延ばしにするのは、時間を非合理に捉えているからです。人事、経理、財務、総務など管理系の仕事によくある「双曲割引モデル」の例
計画の誤謬
あらゆる計画は所要時間や予算を甘く見積もって計画してしまうがために失敗する。
人間には、「楽観バイアス」があるため、計画を立てる際に「たぶん上手くいくだろう」と甘く見積もってしまう。
これを防ぐために、著者が用いていた方法は、「計画全体」にかかる時間を予測するのではなく、計画を細かいタスクに分けて個別に所要時間を予測する手法 のと、「最悪なシナリオの場合にかかる日数」を考える。
デュレーション・ヒューリスティック
サービスの内容よりもかかった時間で評価してしまう認知のクセ