第2章 「スマートさ」の定義
「スマートさ」とは辞書で引くと、その意味は次のように説明されている。
①からだつきや物の形が細くすらりとして格好がよいさま。「ーな車体」
②身なりや動作などが洗練されて粋なさま。颯爽。「ーな態度」・
- 1つ目の意味は、事物の外形に対して
- 2つめの意味は「粗野」等の対義語
- 2つ目の意味はさらに細かく分類すると「洗練」、「細い」、「賢い」
- 「超スマート社会」では、おそらく「賢い」であると考えられる。
- 英語のsmartの起源はなにか。
痛みとリアリティ
- スマートさは賢さ、そして、語源的に考えるなら、「痛み」である。
- 「痛み」「苦痛」はカントやハンナ・アーレントの分析に通底していることは「私」を「私」以外のものと関係から切断し、「私」の意識を全体として占拠すること。
感覚の占拠
- 痛みを感じている状態と感じていない状態は、散逸と集中の対比によっても理解できる。
痛みに支配されているとき、人間は余計なことを感じることから解放されている。痛みは強制的に人間を痛みだけへと集中させるのである。
- つまりそれ以外のものが何もない 余計なことを配慮する必要がない。
スマートフォンが賢いのは、「時計」、「カメラ」、「ウォークマン」、「メモ帳」、「ボイスレコーダー」といった余計なものを持たなくて済むからだ。
-中略-
スマートデバイスの本質は余計なものと関わらなくて済む、という点にある。
世界への不感症
- 痛みは受動的である。
- 痛みは自動的に他の感覚を排除し、その際に私たちはただ痛みを受け取るだけの存在になる。スマートなテクノロジーも同様である。
ギュンター・アンダースは 製品によってライフスタイルが規定されることに対して、私たちが「気づくことも、それとして認めることもできない」という点に「製品の脅威」がある。このような製品の世界に対して、正常な感覚を持ていないことを「不感症」と呼ぶ
痛みと不感症は一体である。
最適化の思想
スマートさの本質は「余計なものを排除する」とそれによって「人間が受動的になる」こと
本書では2つの特徴を有することを「最適化」と名づけている。
スマートさとは最適化されているということである。
第3章 駆り立てる最適化
その際に最適化されるのが何なのか、何がスマート化されると超スマート社会の理念が実現されるのか。
結論は、テクノロジーの性能ではなく仕組みである。
個々のプロダクトをいかに組み合わせるか、そうしたシステムの調整である。
こうした仕組みを本書では「ロジスティクス」と呼ぶ。
スマートさとはロジスティクスの最適化である。
ロジスティクスの最適化
ビジネスシーンではロジスティクスが語られるとき、その重要性の課題は、いかにして無駄を排除した供給プロセスを実現するか
超スマート社会におけるロジスティクス
- これまで人間の経験や思考によって行われていた需要の予測を、AIによってフィジカル空間のデータをもとに処理することで高い精度で行われるようになる。共有の無駄が生じなくなる。
最適化の倫理的課題
- 例 アマゾンの人事プロセスの最適化の際にAIを活用、女性よりも男性を高く評価する傾向が明らかになり、性差別を助長する恐れがあるとして運用を停止
- 何故起きたか、過去の求人に応募してきたのが、ほとんどが男性であったから、この会社は男性に適したものであるとAIは判断した。
現代技術による人間の搾取
ハイデガーによると技術は「覆い隠されているものを明らかにする働き、材料のうちに潜むものを顕在化する働き」である。この働きを「開匿 Entbergen」と名付けている。
現代技術は、自然だけでなく人間自身をも資源として搾取しようとする。
ロジスティクスによる駆り立て
人間を単なる資源として扱い、最適化という観点からのみ眺める態度は、人間に対して、ある種の暴力性を帯びる。そしてその暴力性のうちに、スマートさ特有の「悪」の姿が立ち現れる。