マーケティングの「戦略」論
これまでは「なぜそう言えるのか?」についてを語ってきました。本章はこの定義が「どう役立つのか?」について一緒に考えていく章
18 「ニーズが潜在的である」とはどういうことか
いきなり「新規買い手の獲得」を目指すのではなく、既存の買い手のなかに隠されている潜在ニーズを拾い上げて、新しい価値軸を生み出すことに注力するべきだーこれが筆者なりの結論
- 「ニーズが潜在的である」とはそもそもどういう事態か
「本音」ではなにを求めているのか?
- ニーズが潜在的にはいろいろなパターンがある
- ニーズそのものが買い手の頭のなかに隠れていて、誰にも意識されていない
- 一般的には、「顕在ニーズがはっきりしているようでいて、じつは別の潜在ニーズが隠れている」
- 例えば、「テレビでもっと面白い番組が観たい」というニーズは、その上位に「楽しく暇つぶしができるエンターテインメントがほしい」という潜在ニーズがある
マーケティングはスピードの戦いー競合よりも早くニーズをつかむ
- ニーズがまだ潜在的か、すでに顕在化されているかは、厳密には区別できない「人によって / タイミングによって」まちまち
- 基本的にマーケティングは買い手の潜在ニーズを競合よりも早く発見する「スピードの戦い」
19 「学ぶ」ことで潜在ニーズをつかむ方法
「ある人たちにしか見えていないニーズ」や「現時点ではまだ見えていないニーズ」が見出されるとき、そこにはどんなパターンがあるでしょうか?これには2つの方法があります。
①考えるー自分の「内」にある情報を引き出す
②学ぶー自分の「外」にある情報を取り入れる
- 本節では、まず②の「学ぶ」をさきに見ていく
「外部の顕在ニーズ」を"輸入"するー空間・時間・カテゴリー
- ニーズが潜在的といっても別のところに目を向けると顕在化されているということもある
①別の「空間」における顕在ニーズ
②別の「時間」における顕在ニーズ
③別の「カテゴリー」における顕在ニーズ
日本のマーケターにとって「学歴」が無意味になった理由
- 学ぶための手段が飛躍的に進化し、学べる機会が平等化
- マーケットがグローバル化し、世界全体に目を向けると学ぶ能力が高い人間がごまんといる
環境が整っていない領域ほど、「学ぶ」を生かすチャンスがある
- 学んだアイデアを応用しようにも、なんらかの「明確な障害」が邪魔をしている領域には、チャンスが眠っている
- 海外におけるビジネスの成功事例を学ぶことは、一定の意義がある
- 「なぜそのビジネスが実行/成功できたのか?」といった成功要因を分析するクリティカル・シンキングの視点が必要
20 「考える」概論ー優秀なマーケターが頭のなかでやっていること
そもそも「考える」とはなにか?ーアイデアの顕在化の2パターン
「考える」における敗北の2種類ー「しまった」と「まいった」
ほとんどの敗因は「しまった」である
- 「うまく考える」とは、「まいった」「しまった」を減らしていく活動
- 考えるのが上手い人は、だれもがあとちょっとで引き出せそうなアイデアをひと足先に引き出している
21 マーケティングはアートであるー「自分を掘る」ということ
「どの部分」を考えるのか?ー顕在化すべき対象
①ニーズが顕在的なときー買い手の顕在ニーズを満たす「実現方法」のアイデアを引き出す
②ニーズが潜在的なときー買い手の潜在ニーズを引き出し(a)、それを満たす「実現方法」のアイデアを引き出す(b)
- ②の「買い手がどんな潜在ニーズを持っているのか?」を探る(a)が大事
- 潜在ニーズを導き出すときには、自分自身のなかにある「内なる買い手」に目を向けて、そこから潜在ニーズを汲み上げる作業が必要になる
22 「どの順序」で考えるか?ー戦略立案への具体的ステップ
【定義】マーケティングとは「一定費用の元で、適切な買い手郡にとって よりコストパフォーマンス(CP)の高い商品を生み出し、 その存在を認知させ、その内容を理解させ、これを送り届けることによって、 粗利を最大化する総合活動」である
- マーケティングが本質的な活動である以上、マーケターはつねに次のような意思決定をすることになる
「(A)という商品を生み出し、(B)という買い手群に(C)という方法でその存在を認知させ、(D)という方法でその内容を理解させ、(E)という方法で〇〇〇という費用の下での(F)という最大粗利を達成しよう」
- 〇〇〇はつねに、「所与のもの」となっている
- A~Fに関しては、すべてが与えられているとは限らない
- A~Fは自身の職務をまっとうするために、すべてが決まっていなければならない
- それぞれの変数を確定するために、外部の状況から「学ぶ」やみずからの「考える」ことが必要
- それぞれどんな順序で考えていくべきか、本節以降では「潜在ニーズをゼロから実現しようとする場合」を想定しながら、具体的な戦略立案ステップを考える
ビジネスの目標とは「成果の期待値」であるー実現可能性
- 注目する点は、「目標設定」が冒頭にきていない点
- なぜなら、ビジネスの世界における目標は、実現可能性を前提とする
- ふつうに仕事をすれば達成すればできる粗利 → 必成目標(必達目標)
- 期待値よりも少し高いところに目標が設定される → 望成目標(努力目標)
- さらに、ビジネスの目標には「時間」が内在 → 達成期限
- マーケティング戦略はつねに「◯◯(期限)までに□□(期待粗利)を達成する
- たいていのマーケティングの行動は、シーズ発想的にならざる得ない
- 自社がこれまで積み上げてきた経営資源が立脚点
- 自分たちの資源を生かしたときに「どんなマーケティング手法が実施できそうか?」「どんなニーズを持った人が買い手になり得るか?」「その結果、どれくらいの粗利を期待できそうか?」といった順序で考えていく
23 経営資源を掘り下げるー強み/弱みの抽出
どうすれば自社の「強み/弱み」に気づけるのか?
- SWOT分析では、「すでによく言われている」表面的なポイントばかりに目が言ってしまい、これまでにない発見が生まれづらい
- 有効なのが、まず「過去の成功例と失敗例」を洗い出し、そこから強み/弱みを抽出していくという方法
経営資源をつかむー成功例・失敗例の分析
経営資源には、以下の2つの種類があります。
① 定量的な経営資源
「ヒト・モノ・カネ」
② 定性的な経営資源 「所属メンバーの能力の高低、所有設備の機能の高低、企業に蓄積されている情報、築き上げてきたブランド、など」
経営資源の「強み/弱み」の観点で捉え直すプロセス
- [プロセス①]「定量的」な経営資源の「絶対量」を把握する
- [プロセス②]「定量的」な経営資源の「相対量(競合と比較しての多寡=強み/弱み)」を把握する
- [プロセス③]「定性的」な経営資源の「競合と比較しての多寡=強み/弱み」を把握する
- [プロセス④]「すべて」の経営資源の「買い手・供給業者に対する強み/弱み」を把握する
24 ニーズ・買い手を推定し、商品の粗利目標を決める
- 戦略立案に向けた7ステップの[ステップ①〜④]は準備段階
- ここまでで具体的なマーケティング手法や粗利目標を考えるための材料が出揃う
まず「価値があるか」だけを考えるー「CPが高いか」は考えない
- まず目を向けるのは、「その商品には十分な価値があるか?」だけを問う
- ニーズ仮説と商品アイデアの設定はニワトリと卵の関係、おそらく両者同時に立ち上がる
- どんな企業にも「色眼鏡」がある。これまで気づいて生きた強み/弱み(シーズ)をもとに、買い手のニーズを読み解き、商品を生み出そうとするケースがほとんど
コストを加えて判断し、CPの高い商品を考える
- 買い手のニーズや商品の価値(パフォーマンス)だけにフォーカスしていくつかアイデアを引き出すことだできたら、そこにコストの軸を加えていく
なぜ「買ってくれるはずの人」に買われないのか?
- 「単品あたりの粗利 × 期待販売数量」の最大値は、まだ戦略目標にならない
- あくまで期待販売数量のため、潜在的な買い手のすべてが導入している場合の粗利が算出されている
決して「理想」には届かない販売・プロモーション・流通
- 第一の原因は、マーケティングの費用が有限
- 第二の原因は、販売・プロモーション・流通といった面で失策
25 「最もすぐれたマーケティングの行動」を選ぶには?ー天才の思考法
- マーケターが構築する仮説は「複数」であるべき
アイデアの「多さ=多様さ」である
勉強家なのにアイデアがいまいちなのはなぜ?ー「発想率の高さ」が天才の証
- ①の頭の中に眠っている潜在アイデアの多様性は、下記によってきまる
潜在アイデアの多様性 = 学んだ情報の多様さ(③) + 加工された情報の多様さ(④)
- 潜在アイデアの多様性は、大きな差がつかない
- 大事なのは、②の発想率にある
われわれは書かないと考えられないー認知機能上の元気
- 天才と呼ばれる人たちは、なぜ発想率が異常に高いのか?
- ふつうの人が発想率があがらない理由として考えられるのは以下の2つ
①書かないから
②言葉がないから
- 企業を一大成功に導く経営者の多くは「メモ魔」という話がある
自分の前提が見えていないーバカの壁と言語化
- 自分の発想の範囲に限界を設けてしまう
- しかもより深刻なのは、自分で発想の限界をきめていると、気づいていないこと
- 養老孟司先生はこの限界をバカの壁と名付けた
- 発想の広がりを妨げる「前提」が壁
- それが「見えていない=顕在化できていない」ときにはバカの壁になる
- 前提の壁が立っていることを認めて、その壁を「見える」ように顕在化するプロセスを踏んで、発想をスタートさせることが大事
- そのための言語化が必要
- 自分がどういう前提の下で考えているか、どういう枠組みで発想をしようとしているかを言葉にして初めて、バカの壁を顕在化し、克服することができる
「壁」が見えたあとにやるべきことー仮説の絞り込み
- 「壁」が見えるようになったあと、やるべきことは意識的に一つ一つの壁(枠組み)の内側にとどまりながら、アイデアを引き出していくこと
- 大切なのは、自分たちがいま、どういう前提の下で発想を行っているのか?」をしっかりと意識できていること
- アイデアを十分に発散させたら、あとは実行すべき戦略を絞り込む収束のプロセス
- 最も粗利が大きいものを「最適な仮説」として選択する
検証プロセスで仮説の確度を高めるーリサーチ対象を決める4つの基準
- 検証すべきは、その仮説に直接関係する強み/弱み
- なんでもかんでもリサーチ対象にせず、「調査する/しない」、調査する場合の「優先順位」を見極める
①その仮説はどれくらい目標達成に寄与するか?
②その仮説にはどれくらい信ぴょう性があるか?
③その調査にはどれくらいの時間と費用がかかるか?
④その調査にはどれくらい信ぴょう性があるか?
26 問題解決型のマーケティング戦略とは?ー「コケた商品」をもっと売りたい
前述の7ステップで想定されていたのは「潜在ニーズに答える商品をまったくのゼロから実現しようとする場合」
この節では、「潜在ニーズに答える商品をまったくのゼロから実現しようとする場合」の対極にあるm「問題解決型のマーケティング戦略」
問題とは、ある戦略を実行したところ、その結果が目標を下回ってしまった状態
戦略が実行され終わっており、どう修正していくかが課題になっている局面
問題解決型のマーケティング戦略の大前提は「目標自体は変更しない」
- 目標ではなく、手段を変えることで、問題を解決できないかを探っていいく
直接の敗因はいつも「販売数量の少なさ」である
- マーケティングにおける問題とは、目標粗利の未達
- 粗利とは「単品あたりの粗利 × 販売数量」
- その原因としては次の2つのどちらか
①「単品あたりの粗利」が予想より少なかった
②「販売数量」が予想より少なかった
- ①は単価は自ら決定することですし、単品あたりの変動直接原価は事前の交渉で決まってくるはず、そのため②の「販売数量の少なさが粗利未達の真の原因だと言える
「一見さん」が少ないのか、「リピーター」が少ないのかートライアルとリピート
- 「販売数量」が少ないを、もう少し細かく見る
- 一定期間のうち、なんらかの商品が買われるのは、意思決定の材料となる情報の種類に応じて、トライアル購入かリピート購入かのいずれかに分けられる
①「トライアル」が予想ほど多くなかった
②「リピート」が予想ほど多くなかった
- ここからは上記の2つのケースに分けて、販売数量の少なさの要因を分析
トライアルが伸びない4つの理由
①商品の存在を認知した人が予想より少なかった
②商品の内容を理解した人が予想より少なかった
③商品のCPを「最高」と評価した人が予想より少なかった
④商品を送り届けられた人が予想より少なかった
①はコミュニケーション上の原因。広告・宣伝用メディアの特性を見誤ったり、そこに載せるメッセージやクリエイティブが最適でなかった結果
②もコミュニケーション上の失敗。買い手にとってどれほど高いCPを持った商品なのかを変わらせることが必要
③は次節にて解説
④は最も残念なケース、コミュニケーション上の問題や、流通上の問題があった
お試し購入を促す「リポジショニング戦略」
- 自社商品の訴求したいところはきちんと伝わっているのに、買い手はそのCPを「最高」と感じてくれなかった原因として考えられるのは以下2つ
③-A.この商品のCPを「最高」と評価してくれる買い手を選択できていない
③-B.この買い手に対してCPが「最高」と評価される商品を提供できていない
- これらを解決するには、商品かターゲットを変える
「羊頭狗肉」を回避するためにやるべきこと
- ここまでトライアル購入が予想ほど伸びなかったことについて考えていた
- リピート購入はリピート率(=リピート購入数÷トライアル購入数)
- リピート率が伸び悩んでいるときは、「買い続けてもらえない商品」になっている
- リピートにはさまざまなケースがある。「そもそも1回もリピートしてもらえていない」「1回はリピートしてもらえたが、それ以降は買ってもらえていない」などいくつかある。
- 共通して言えるのは、どこかの時点で次の3つのどれか(1つ以上)
①市場が小さくなった
②自社商品よりもCPの高い競合商品が登場した
③羊頭狗肉
- 羊頭狗肉を解決するためには、「どこまで遡るのか」に応じて大きく2通り
(a)商品だけを変える
(b)商品を生み出す強み/弱みから変える
- もしも自社に「これ」という強みが存在しない場合、新たにつくる
- 致命的な弱みが存在しているなら、いまからそれを打ち消す
- 上記2つをどちらを選択するにしろ、必要になるのはCPの分析
- こうした分析をするのにマーケターたちの思考の補助ツールを最後の章で見ていく